SOMEDAY/OVERLAPのカセット・テープが流れる2つのシーン

カセット・テープ

聞き覚えのある不安定な口笛のメロディ

人気のない住宅街の暗い道を歩いていると、
どこからか聴いたことがあるメロディが聴こえてきた。

かなり音程が不安定な口笛が奏でていた曲は、
ボクをある時間のあるシーンへと連れて行く。

それは音楽の1つの良い面でもあり、
場合によっては悪い面でもある。

連れて行ってくれる場所が楽しければ問題ないけれど、
時に到着した場所が悲しみに包まれていることもあるからだ。

海へ向かう車の中で流れる1本のカセット・テープ

夏の海へと向かう、
渋滞の道。

カー・ステレオに、
年上の彼女がカセット・テープを入れる。

流れてきたのは、
聴いたことがない日本語と英語が混ざり合ったミュージック。

誰の曲なのか?はわからなかったけれど、
それは悪くはなかった。

これはブルース・スプリングスティーンみたいだなとか、
こっちはフィル・スペクター・リスペクトかなとか。

ビートルズ入っているなとか…、
要は楽しく聴けたからだ。

彼をパクリ野郎と蔑む奴らも居たけれど、
連想させられるアレンジ(メロディはそうでもない感じがした)は楽しかった。

乗っかっている歌詞も、
当時はとても新鮮だった。

大学に入った年の夏、
だったはずだ。

流れていたのは、
佐野元春1982年リリースのアルバム『SOMEDAY』。

テープを裏返すと、
今度はもっとビートルズっぽいなと思うような曲が流れてきた。

杉真理のアルバム、
やはり1982年の『OVERLAP』。

こちらもラズベリーっぽいなとかビーチ・ボーイズじゃんとか、
モータウンだねとか…やはり楽しかった。

すっかりボクはその音楽が気に入って、
結局テープを彼女からもらってしばらくの間ずっと聴いていた。

その彼女とは、
結局自然消滅してしまった。

いや、
させたんだな。

それでもあの夏は切り取られ、
音の隙間に隠されている。

合宿免許の大部屋で流れる1本のカセット・テープ

ところで、
今でも合宿免許ってあるんだろうか?

田舎の教習所で、
何日も近くの宿泊施設に泊まり込んで免許をとるっていうシステムだ。

切り離された日常の中での生活は、
あまりにも日常的でみんな時間を持て余していたけれどつまらなくはなかった。

そこでは彼女からもらった1本のカセットテープが、
毎日朝から晩まで流れていた。

持ち込んだテープは他にもあったけど、
結局みんなが共通して聴きたがったのがこのテープだったのだ。

大部屋に寝泊まりするような環境で、
そこにはいろんなタイプの人間が集まっていた。

同じ大学の奴や他の大学の奴もいれば社会人もいたし演劇やバンドやっている奴、
真面目に空いている時間を勉強に充てている奴…。

普段聴いている音楽はバラバラだったし音楽なんて聴かないって奴もいたけれど、
なぜかこの2枚のアルバムは程度の差こそあれみんなに受け入れられひたすら流れることになる。

プライベートなどどこにも存在しないような生活だったけれど、
それはそれで毎日が楽しかった。

やがて2週間ほどの合宿は終わり、
田舎の生活から解放されてみんな日常へと戻っていく。

帰り際、
宿を手伝っていた無口だけれどとてもカワイイ女の子にボクはそのテープをプレゼントした。

2週間もあれば、
その気になればそれなりに心を通わせるようになることだってある。

まだ、
携帯もない時代だ。

戻ってからしばらくは連絡を取り合っていたけれど、
結局は離れている距離を超えられる年齢ではなかった。

あのテープはあのあとどうなっただろう?
なぜか海の底に沈んでしまったそのカセット・テープのイメージがボクの頭の中にある。

それはいったい、
何を表しているんだろう?

Rock & Roll Night / Lonely Girl

そんなわけで、
この2枚のアルバムの曲が流れると必ず2つの時間が自然に頭の中に流れるのだ。

まあ、
そんな場面を読まされても…だろうけどそういうことだ。

では、
それぞれのアルバムから1曲ずつ。

   

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