風の歌を聴け
この話は1970年の8月8日に始まり、18日後、つまり同じ年の8月26日に終る。
―村上春樹,風の歌を聴け
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毎年8月8日がやってくると、
読みたくなる本がある。
村上春樹最初の作品、
『風の歌を聴け』だ。
書かれたのは1979年、
書いたのは29歳の『僕』。
時間を延ばしているのは時間の流れていない場所
1970年の8月8日(土)は、
N・B・Eの『ポップス・テレフォン・リクエスト』の放送がある日でこの物語の始まりの日。
8/8-26の18日間の中では3回放送されたはずで、
8/8(土)の放送から3日後にラジオN・B・EのTシャツが郵送で『僕』のところに送られてくる。
翌日の朝、
僕はその真新しいチクチクするTシャツを着て港の辺りを散歩する。
目についた小さなレコード店に入って、
一週間前に洗面所で転がっていた『小指のない女の子』と再会することになる。
8/8(土)の3日後の翌日だから、
その日は8/12(水)ということになる。
小指のない女の子から、
電話が掛かってくる。
電話番号は、
ジェイズ・バーで教えてもらった。
僕が1週間も店に来ないのは体の具合が悪いんじゃあないかとみんな寂しがっていたわ、
と小指のない女の子。
そうやって再度ジェイズ・バーで2人が会ったのは、
僕が1週間も店に来ていなかったのだから8/19(水)以降となる。
その翌日、
8/20(木)に僕は小指のない女の子の部屋にビーフ・シチューを食べに行くことになる。
その時
彼女は僕に明日から一週間ばかり旅行に行くと言う。
一週間後だから8/27(木)、
彼女から再び電話が掛かってきて会うことになる。
物語の終わりとされているのは8/26(水)なので、
この時点でもう終わりを過ぎている。
その時に僕は彼女にいつ東京に帰るの?と訊かれて、
来週と答えている。
来週なんだから
8/30(日)もしくは31(月)以降。
でも僕が帰る日、
ジェイズ・バーのカレンダーは8/26(水)。
ジェイズ・バーでの時間が物語の時間を延ばしているのだとすれば、
これを抜かすことで時間は短縮され辻褄が合う。
きっと、
ジェイズ・バーでは時間が流れていないのだろう。
というよりも、
この物語の世界は閉ざされた空間の中の幻みたいなものなんだろう。
この物語は軽いようでヘヴィーだし、
バラバラのようで全てが繋がっている。
そしてそこに描かれている世界は、
存在理由を失ってしまった僕の内側を巡るトリップだ。
だからこそ、
ボクは僕に8/8に会いにやってくるのかもしれない。
カリフォルニア・ガールズ
物語で流れるビーチ・ボーイズのCalifornia Girlsは、
ブライアン・ウィルソンとマイク・ラヴの曲だ。
死者の目を覚ますべく元気に飛び回るマイク・ラブのとなりで、
―村上春樹,神話力、1963、1983、そして
彼が僕らに向かって語りかけるのは夢の記憶ではなく、
夢の不在だ。
彼が示しているのは、
二度と戻ってはこない何かだ。
この曲がこの物語で流れるのには、
それなりに理由がある。
といった妄想を、
ボクはあと何回くらい繰り返せるんだろう?
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