彼女の好きな『蛍の光』よりも『僕』が好きな『峠の我が家』

バッファロー

Home on the Range(峠の我が家)

「『峠の我が家』の方が良いな、かもしかやら野牛やらが出てきて」
彼女はもう一度にっこりと笑った。
「あなたと話せて楽しかったわ。さよなら」
「さよなら」と僕も言った。

―村上春樹-ニューヨーク炭鉱の悲劇

前回登場したほどよく金がかかった青いシルクのワンピースをうまく着こなした女性が、
『僕』に「私、『蛍の光』って大好きよ。あなたは?」に続いて『僕』が答えるシーンだ。

『Auld Lang Syne』の方はスコットランド民謡だったけれど、
今回の『Home on the Range』はアメリカ民謡。

カンザス州の州歌でもあり、
フランクリン・ルーズベルト大統領の愛唱歌としても有名な曲だね。

原題は『Home on the Range』だから、
直訳すると『この地の我が家』とか『平原の我が家』という感じになる。

それにバッファローがうろつくのは、
そもそも平原であって峠ではない。

元々この歌詞をつくったヒグリーって人はカンザス州の人で、
カンザス州は大平原でやはり山や峠はない。

だから、
この日本のタイトルの『峠の我が家』というのはちょっとね違うのだ。

でもまあ『この地の我が家』とか『平原の我が家』よりは、
『峠の我が家』っていう方が確かに良い感じではある。

この『峠の我が家』は1966年にNHKの『みんなのうた』で流れたのが最初らしく、
その時このタイトルが付けられたんだろうか?

まあ何でも良いんだけれど、
とにかく原題は『Home on the Range』だ。

なぜか『風の歌を聴け』の1シーンを思い出す

Oh, give me a home, where the buffalo roam.
Where the deer and the antelope play.

―Home on the Range

それで、
この曲にはかもしかや野牛が出てくるから好きだと言う『僕』。

全集ではここの会話はこんなふうに直されている。

「僕は『峠の我が家』の方が良いですね、鹿やら野牛やらが出てきて」
彼女はもう一度にっこりと笑った。
「きっと動物が好きなのね」
「動物は好きです」と僕は言った。
そして動物園好きの友人と、彼の喪服のことをふと思い出した。
「あなたと話せて楽しかったわ。さよなら」とその女は言った。

村上春樹;ニューヨーク炭鉱の悲劇

このシーンでボクはなぜか『風の歌を聴け』の中の、
小指のない女の子と『僕』の会話をふと思い出す。

「テレビは見ない?」
「少しだけ見る。 昔はよく見たけどね。
 一番好きなのは 名犬ラッシーだったな。 もちろん初代のね。」
「動物が好きなのね。」
「うん。」

村上春樹;風の歌を聴け

結果的に動物好きをアピールしているという点で、
なんとなく同じような会話だなと思ったのだ。

もしかすると『僕』って、
案外あざとい奴なのかもしれないななんていうふうにも思ったりする。

もしそうだとしても、
彼女はにっこり笑って「あなたと話せて楽しかったわ。さよなら」で終わってしまう。

上手くやれても、
うまくいかない時だってあるのだ。

まあ、
そんなものだ。

Tori Amos – Home on the Range

さて、
この『Home on the Range』にはいろんな人が取り上げている。

例えばビング・クロスビーとかフランク・シナトラとか、
ピート・シーガーとかコニー・フランシスとか…。

あとは、
映画でもよく流れていたりする。

昔の映画から今の映画までずっと使われ続けているし、
これからもきっと使われ続けるのだろう。

何となくこの曲はカーボーイ風の男性が唄っているイメージなんだけど、
それってボクだけなのかな?

そういう感じではないバージョン、
がある。

トーリ・エイモスの唄っているやつが、
結構ステキなのでそれを聴こう。

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On A Slow Boat To China
村上春樹 『中国行きのスロウ・ボート』 で流れる音楽たち

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