『ニューヨーク炭鉱の悲劇』のエピグラフに引用されている『ビージーズの曲』

炭鉱

実は1941年にニューヨーク炭鉱で悲劇など起こってやしない

地下では救助作業が、
続いているかもしれない。
それともみんなあきらめて、
もう引きあげちまったのかな。

『ニューヨーク炭鉱の悲劇』 (作詞・歌/ビージーズ)

―村上春樹-ニューヨーク炭鉱の悲劇-Epigraph

この『ニューヨーク炭鉱の悲劇』のエピグラフに引用されているのは、
書かれているとおりビージーズの『New York Mining Disaster 1941』の歌詞だ。

I keep straining ears to hear a sound.
Maybe someone is digging underground .
Or have they given up and all gone home to bed .
Thinking those who once existed must be dead?

―Barry Gibb / Robin Hugh Gibb-New York Mining Disaster 1941

この4行のうちの、
真ん中の2行が引用されている。

もちろん、
1941年にニューヨーク炭鉱で悲劇なんて起こってやしない。

そもそも、
ニューヨーク炭鉱自体存在などしていないはずだ(時代は違うがあったという話もある)。

1941年に起こっていた悲劇は欧州での第二次世界大戦であり、
真珠湾攻撃による太平洋戦争だ。

そして、
この曲がリリースされたのは1967年でありこの時はベトナム戦争の真っただ中。

この曲は、
リリース前年の1966年にイギリスのウェールズ南部アバーファン炭鉱で起こった事故のことを唄っている。

これらを結び付けると、
色々と考えられる。

もちろんここではあれこれと書くことはないけど、
そういうことだ。

アバーファン村の鉱山山腹のボタ山崩落事件

1966/10/21、
アバーファン村にある鉱山の山腹のボタ山が崩落した。

豪雨が採掘廃棄物を液状化させて小学校を始めとして村に襲いかかり、
144人もの方が亡くなっている。

しかも、
そのうちの116人が子供だったというのだからまさに悲劇だ。

それをストレートにではなく、
ニューヨーク炭鉱の悲劇として歌にしたわけだ。

まあ1年くらいで事件をそのまま唄うのは憚られることだったろうし、
更にそこに深い意味を加えたかったのかもしれない。

この曲はビージーズにとって最初のヒット曲となり、
全米で14位で全英でも12位となっている。

Have you seen my wife, Mr. Jones?
Do you know what it’s like on the outside?
Don’t go talking too loud You’ll cause a landslide, Mr. Jones.

Barry Gibb / Robin Hugh Gibb-New York Mining Disaster 1941

この曲に出てくる『Mr.Jones』はマーガレット王女の夫、
アンソニー・アームストロング=ジョーンズのことなんだろう。

エリザベス女王は自分が現場に行けばその対応で救出活動が滞ると考え、
実際に現場を訪問したのは8日も経ってからだ。

ジョーンズは、
感情的にすぐに訪れたらしい。

どちらの判断が賢明だったのか?
は評価の分かれるところだろう。

冷静なエリザベス女王、
情深いジョーンズ。

もしこれが日本で起きていたならジョーンズの行動の方に軍配が上がりそうだけど、
『世紀の不倫男』とか『女性を食い物に成り上がった最低男』なんて言われ方をされていたからな。

今の世の中なら、
きっと持ち上げられたり激しい批判に遭ったりということになったかもしれない。

それ抜きにしても、
ボクは冷静な判断をしたエリザベス女王の方を支持する。

村上春樹はこの曲をあまり好きではないらしい

この物語も題名から始まったものらしいけど、
作者自身この曲はあまり好きではないと言っている。

これも題名から始まった話。
もちろん初期のビージーズの ヒット・ソングの題名である。
この曲そのものは僕はあまり好きではない。
これは創刊間もない 『ブルータス』のために書いた。
担当の編集者は当時この作品を 掲載することを渋った。
「ビージーズはおしゃれじゃない」 というのがその理由であったと記憶している。
まあそれはそうかもしれないけれど、
そんなこと言われても僕としてはとても困った。
僕はこの曲の歌詞にひかれて、
とにかく『ニューヨーク炭鉱の悲劇』 という題の小説を書いてみたかったのである。
ビージーズが歌おうが、 ベイ・シティー・ローラーズが歌おうが、 関係ないのだ。
人はおしゃれになるために小説を書いているわけではない ――と思う。
全体を刈り揃える程度に手を入れた。

―村上春樹全作品集 1978-1989 「自作を語る」 短編小説への試み

少し引用が長くなったけれど、
そういうことらしい。

この中でベイ・シティー・ローラーズが出てくるあたりはちょっと笑えるけど、
ブルータスの担当編集者の言っていることの方があまりにもバカバカし過ぎてもっと笑える。

Bee Gees – New York Mining Disaster 1941

そんなわけで、
ビージーズ1967年のデビュー曲『New York Mining Disaster 1941』を聴こう。

デビューしてからしばらくは、
ビージーズもそんなに悪くない。

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